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2012/08/25(土)

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忘れ物(上)

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最近、よく思い出すワンシーンがある。

就活をしていた時のことだ。
「4大証券」の一角、Y証券の最終面接に
すすんだ私は、急きょ「練習」と称して
中堅のT証券をうけることにした。

面接はとんとん拍子にうまくいき、第3次
の「理事面接」に進んだ。
この証券会社は、社長ほか取締役はすべて
業界最大手のN証券からの「天下り」だ。
T証券採用組はどんなにがんばっても、
取締役の一歩手前である「理事」までしか
なれない。

そして、この「理事面接」が実質的な最終
面接で、天下り社長による最終面接はよほ
どのことがない限り落ちない仕組みだった。

現れた「理事」は好々爺といったかんじの
人物だった。まだ60歳にもなってないのに
こたつの中で孫を膝に抱いてせんべいを食
べてる、そんな印象だった。
いい人には違いないのだが、私がイメージ
してたいわゆる「エリート」の姿とはかけ
離れていた。

私がY証券の最終面接に残っていることを
話すと、理事はこう言った。
「君ね、君は学生だからまだわからないだ
ろうけど、大手で生き残るのは大変だよ。
出世もできず、地方支店をどさまわりして
一生を終えるのかい?」

「確かにここ(T証券)では取締役以上には
なれない。でも、君なら理事にはなれるよ。
そうすれば給与はN証券の給与体系にあわ
せるから生活は安定するよ」

「大手で背伸びしてぼろぼろになるより、
ここで理事くらいになって生きる方が、
身の丈に合ってて一番幸せじゃあないかね」

妙に安定と身の丈を強調する理事に、当時
の私は強烈な反発を覚えた。
東京でエリートビジネスマンとして成功で
きると信じてた私は「そんな安定志向だか
ら干からびてしまうんだ」と内心、理事を
軽蔑さえしたものだ。

それでも、理事面接はうまくいった。

最後の社長面接。
中央にN証券出身の社長、右に同じくN証券
出身の副社長、左に理事が座っていた。
事前に理事からは「何を話すときでも、社長
のほうを見て話すように」指示されていた。

N証券の天下り社長は、部屋中にオーラを
放っていた。眼光は鷹のように鋭く、額には
エネルギッシュな脂を浮かべていた。
私が何を言っても「うん、うん」と軽くうな
ずくだけ。それでも周りを圧倒させる何かが
あった。

それだけに、その横で社長に最敬礼しながら
司会を務める理事が、悪い冗談にしか思えな
かった。

結局、T証券にもY証券にも受かった。
夢も希望もなさそうなT証券に行かなかった
のはもちろんだが、いろいろあってY証券に
もいかなかった。

あれから17年。
大手Y証券はあっという間に崩壊し、T証券
は今でも健在だ。

そして、「東京」と「エリート」に固執し、
「安定」と「フツーの生活」に反発し続けた
私は今、ここ尾道で学習塾を営んでいる・・

(続きは後日書きます)

 

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